春の野山で出会える二つの植物、ネトル(イラクサ)とヨモギ。どちらも古くから薬草として親しまれてきたハーブですが、現代の研究によってその健康効果が科学的に裏付けられつつあります。今回は、これらの「天然のマルチビタミン」とも呼ばれる植物の魅力に迫ります。
ネトル(イラクサ):刺のある恵み
基本情報
ネトルは、イラクサ科イラクサ属の多年性植物で、成長すると高さは30~50cm程度になります。ネトルの茎や葉の表面にある毛のような細かいトゲは、刺さると焼けるように痛く、皮膚が赤く腫れます。日本ではイラクサとして知られており、関東以南の本州、四国、九州に自生しています。
「ネトル」の名前は英語のneedle(針)に由来し、学名のUrticaは、トゲが刺さった時の焼けるような痛みから、ラテン語のuro(焼く)に由来しています。
豊富な栄養成分
ネトルの葉には、β-カロテンやビタミンC、葉酸などのビタミンや、鉄やカルシウム、マグネシウムなどのミネラル、またクロロフィル、フラボノイドなどさまざまな栄養素が含まれています。この豊富な栄養素から、「天然のマルチビタミン」とも呼ばれています。
主な健康効果
アレルギー症状の緩和
ネトルに含まれるフラボノイドの一種ケルセチンには、ヒスタミンの分泌を抑制し、アレルギー症状を軽減する効果があります。また、ケルセチンにはアレルギー症状を緩和すると同時に、炎症を起こす原因物質であるロイコトリエンの分泌を抑制するため、抗炎症効果も発揮します。
ヨーロッパでは春先にエルダーフラワーやダンディライオンとともにネトルを摂取し、体質改善をはかる春季療法と呼ばれる方法があります。
造血・浄血作用
ネトルには鉄が含まれているため、貧血の人や妊婦さんが服用するケースがあります。ネトルの場合はビタミンCが含まれているため鉄の吸収が高まりますし、また、フラボイド類が鉄イオンをキレート化して可溶化するため、吸収が高まると考えられています。
ネトルはクロロフィルを豊富に含むことから、古くから浄血や造血に用いられてきました。
安全性と注意事項
ネトルは「メディカルハーブ安全性ハンドブック」ではクラス1(適切な使用において安全)とされています。ただし、元のテキストにあった「心臓病・腎臓病からくる浮腫がある人は避けるべき」という主張については、専門医に相談することをお勧めします。
ヨモギ:和ハーブの女王
基本情報
ヨモギとはキク科ヨモギ属に属する多年草植物で、若葉を食用にする代表的な春の野草のひとつです。繁殖力が強く、いたるところで育つことができる野草で、乾いた道端によく生えています。
その名前の由来は、「(ヨ)よく(モ)燃えるor萌える(ギ)茎のある立草」から来ており、その旺盛な生命力、そして豊富な精油成分(芳香)を表しています。
栄養価の高さ
ヨモギには葉緑素や鉄、β‐カロテン、ビタミン、食物繊維など健康を総合的にサポートする成分が含まれています。ヨモギには、食物繊維がほうれん草のおよそ3倍含まれています。
主な健康効果
貧血予防効果
ヨモギは良質の葉緑素を含んでいます。葉緑素は末梢血管を拡張し、新陳代謝を高め造血作用に役立ちます。また、ヨモギは鉄分も豊富に含んでいるため、貧血予防にも効果的です。
浄血・デトックス効果
クロロフィルには、貧血を予防する効果以外に、血中のコレステロール値を低下させたり、体内の老廃物を体外へ排出させたりといった働きもあります。
その他の効果
古くから切り傷、食あたり、下痢止めなど外用・内服を問わず利用されてきた薬草でもあります。ヨモギに含まれるタンニン成分は、肌を引き締め、肌荒れを防止したり、湿疹やあせもなどの治りを早める効果でも知られています。
ヨモギの利用方法
食用として
春から初夏にかけての若葉を食用とし、日本では草餅やヨモギ団子、おひたし、和え物、天ぷらやヨモギ茶として親しまれています。
その他の用途
夏にはよく茂ったヨモギの葉を刈り取って乾燥させ、臼でついて綿毛を集め、灸の「もぐさ」としても利用してきました。
注意事項
キク科に分類される植物ですので、キク科アレルギーの方は注意が必要です。万が一体調に変化が現れた場合は小児科やアレルギー専門医に速やかに相談するようにしましょう。
自然の恵みを活用する知恵
これらの植物は、現代でも春の野山で比較的容易に見つけることができます。ただし、野生の植物を採取する際は、以下の点にご注意ください:
- 正しい種類の識別が重要です
- 汚染されていない場所での採取を心がけましょう
- 初めての方は経験者と一緒に採取することをお勧めします
- 地域の採取ルールを確認しましょう
一度にたくさん摂取するのは避け、日々継続的して摂取するほうが効果を得やすいでしょう。
まとめ
ネトルとヨモギは、どちらも豊富な栄養素を含み、古くから薬草として利用されてきた植物です。現代の研究によってその効果が科学的に検証されつつあり、自然な健康維持の手段として再び注目を集めています。
ただし、これらの植物の摂取は医学的治療の代替ではありません。健康上の問題がある場合は、必ず医師に相談してから利用することをお勧めします。
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