私は2代目のたたき上げ社長として、経営者と社員の狭間で長年苦しんできました。
特に中間管理職時代の記憶は今でも鮮明です。朝早くから夜遅くまで働き、プレイヤーとしての業務をこなしながら、部下の管理もしなければならない。上からは成果を求められ、下からは不満を聞かされる。まさに板挟みの毎日でした。
そんな経験を経て、私は一つの真実にたどり着きました。
それは、従来の管理職像にとらわれている限り、この苦しみから抜け出すことはできないということです。
プレイング3割、マネジメント7割という黄金比率
私が経営者になって最初に実践したのは、プレイング業務とマネジメント業務の時間配分を「3:7」にすることでした。当初、社員からは「社長が現場を知らなくなる」という不安の声も上がりました。しかし、この配分こそが組織を成長させる鍵だったのです。
私自身、中間管理職時代は逆の割合で働いていました。プレイング業務に7割、マネジメントに3割。その結果、部下は成長せず、私は疲弊し、組織は停滞していました。
この失敗から学んだのは、管理職の本当の価値は「自分が動くこと」ではなく「チームを動かすこと」にあるという単純な真理でした。
部下より下手でいい、という解放感
かつての私は、部下の誰よりも優秀でなければならないと信じていました。
営業成績でトップを維持し、誰よりも長く働き、全ての業務を完璧にこなそうとしていました。しかし、これこそがプレイングマネージャーの罠の本質だったのです。
ある日、体調を崩して1週間休んだことがありました。復帰後、驚いたことに、部下たちは私がいない間も問題なく業務を回していました。むしろ、いくつかの業務は私がやっていた時よりも効率的になっていたのです。この経験が、私の管理職観を根本から変えました。
部下より上手である必要はない。むしろ、部下の方が上手にできる業務があって当然。この考え方を受け入れた瞬間、肩の荷が下りたような解放感を覚えました。
部下から学ぶ勇気、感謝する謙虚さ
2代目社長として会社を引き継いだ当初、私は先代の威厳を保とうと必死でした。しかし、デジタル化が進む中で、若い社員の方が新しいツールやシステムに詳しいことは明白でした。
そこで私は思い切って、若手社員に「教えてください」と頭を下げました。
最初は戸惑っていた彼らも、次第に積極的に知識を共有してくれるようになりました。この経験から学んだのは、部下から学び、それに感謝することで、組織全体の学習意欲が高まるということです。
遅く来て早く帰る、という勇気ある決断
中間管理職時代の私は、誰よりも早く出社し、誰よりも遅く退社していました。それが管理職の責任だと信じていたのです。しかし、この行動は部下に「長時間労働が評価される」という誤ったメッセージを送っていました。
経営者になってから、私は意識的に部下より遅く出社し、早く退社するようにしました。
最初は罪悪感もありましたが、この変化により組織に大きな変革が起きました。部下たちは時間内に成果を出すことに集中し、無駄な残業が減り、全体の生産性が向上したのです。
成功は部下の手柄、失敗は自分の責任
この原則を実践することは、プライドとの戦いでもありました。特に成功したプロジェクトで自分の貢献を主張したくなる気持ちは、今でも完全には消えていません。成功を部下に帰属させることで得られるものは、一時的な満足感よりもはるかに大きいのです。
失敗の責任を引き受けることについても、最初は抵抗がありました。この姿勢を貫くことで、部下は安心してチャレンジできるようになり、イノベーションが生まれやすい組織文化が形成されました。
指摘せず、褒めすぎない、という高度な見守り
私はかつて、部下のミスを見つけるたびに指摘し、成功するたびに大げさに褒めていました。それが良い管理職だと思っていたのです。しかし、この行動は部下の自律性を奪い、私への依存を生んでいました。
現在は、ミスを見つけても黙って見守り、部下が自ら気づくのを待ちます。成功しても、静かに認めるだけです。この変化により、部下は自分で考え、判断し、成長する力を身につけました。
明日から実践できる、私が実際に行った5つのステップ
- 業務の棚卸しと可視化 全業務をホワイトボードに書き出し、プレイング業務に赤、マネジメント業務に青のマークをつけました。視覚的に確認することで、時間配分の歪みが明確になりました。
- 段階的な権限委譲 最も得意だった営業業務から手放し始めました。最初は不安でしたが、部下の成長を見ることが新たな喜びになりました。
- 聖域としての1on1時間 毎週金曜日の午後を1on1の時間として確保し、この時間だけは何があっても変更しないルールを作りました。
- 退社時間の公開宣言 社内掲示板に「本日18時退社」と毎日書き込むことから始めました。最初は勇気が必要でしたが、これが組織文化を変える第一歩となりました。
- 質問型リーダーシップへの転換 「こうしなさい」から「どう思う?」への転換は、私にとって最も困難な変化でした。しかし、この変化が部下の思考力を最も成長させました。
中間管理職の皆様へ
プレイングマネージャーの罠は、真面目で責任感の強い人ほど陥りやすいものです。私自身、その罠に長年苦しみました。しかし、従来の管理職像から自由になることで、新しい可能性が開けます。
この逆説的アプローチは、最初は恐怖を伴うかもしれません。
部下より優秀でなくていい、長時間働かなくていい、全てをコントロールしなくていい。これらを受け入れることは、今までの自分を否定するようで辛いかもしれません。
しかし、私が経験から断言できるのは、この変化の先には、より健全で生産的な組織と、より充実した管理職人生が待っているということです。部下も成長し、あなた自身も成長し、組織全体が活性化する。これが、私が実践してきた逆説的マネジメントの真髄です。
明日から、小さな一歩でも構いません。従来の管理職像にとらわれず、新しい自分を発見する旅に出てみませんか。その旅路で感じる孤独や不安は、きっと多くの中間管理職が共有しているものです。だからこそ、共に歩んでいきましょう。
コメント